Don't love me.
『お前は、このままでいいの?』
何だ、それは。
深夜2時にあの男からこんなメールが来た。
あの男とは、私の彼氏だ。
改まって、ひとつ聞いてもいい?なんて言うから、
何かと思えばこれだ。
ショックだとかそういう感情は、皆無だった。
寧ろ、私はアイツがこれを言い出すのをずっと待っていた。
もう寝ようとしていた私は、歯ブラシを咥えたまま鼻で笑った。
別れようと考えているのはアイツの方なのに、こんな切り出し方。
まるで私を気遣って別れるような雰囲気だ。
別れたいんでしょ。
キレイに取り繕おうとするなんて、格好悪いわ。
『私はこのままだって構わない。
でも、そう言い出したってことは、別れようって考えてるんでしょ?』
馬鹿みたいじゃない、こんな返信?
何でわざわざこんなこと送らなきゃいけないの。
案の定、アイツからの返信は、
『うん、まぁそうかな。でもまだ分かんないよ。
今考えてるんだ。今日はもう遅いから寝るよ、お休み』
あぁ、思った通りの返信だわ。
何の捻りもない。
「…さっさと寝ろっての」
携帯の画面に向かってそう吐き捨てた。
恋愛感情で言う好き≠チていう気持ち、私は忘れてしまった。
よく分からないんだ。
でも、恋愛感情じゃない好き≠ネら溢れるほど感じる。
そういう人たちなら私の周りに沢山居る。
胸を張ってその人たちが「好きだ」って言える。
アイツも、好きだ。
だけど、恋愛感情じゃない。
こんなこと言ったら、きっと傷付くだろうから決して口にはしないけど。
付き合いたくなかった、本当は。
嫌いじゃないけれど、恋愛感情で好きでもないから。
私がそんなことではいずれ別れると分かっていたから、とりあえず付き合った。
思いの外、長続きしたんじゃないかな。三ヶ月か。
何度も思うけど、こんなことアイツには絶対言えない。
もう一つ付け加えれば、浮気だった。
「気分、悪いな…」
寝ようと思ったけれど、何だか寝付けそうにない。
窓からは月が見える。きっと明日も晴れるに違いない。
椅子に寄り掛かると、ギィと音を立てた。
何気なく、携帯を手に取ってメールの受信BOXを開いてみる。
腐るほどあるんだ、アイツからのメールが。
結構マメな奴で、ちょくちょく連絡してきた。
私は結構面倒がる性格だから、放置することも度々あった。
そうするとアイツは馬鹿みたいに私を心配した。
それでも、私が浮気しているとは少しも疑っちゃいなかった。
アイツに関してもそんなことは無かった。
いつもアイツは携帯を私に預けていた。
別にアイツが浮気してたって構わなかったけれど、
とりあえずメールとか履歴とか確認したりしていた。
他の女の連絡先は何件かあったけど、全くやり取りした形跡はなかった。
本当に私とだけなんだっていう事実を知った時、少し心苦しかった。
私は絶対に携帯を他人に見せることなんて出来ないから。
私だけを見ていてくれて、心配してくれていて、愛してくれた。
いつだって手を引いてくれたし、
私の知らない所へ沢山連れて行ってくれた。
ずっとずっと誰よりも傍に居てくれて、
ほんの少しの信号待ちの間でさえ、キスしてくれた。
本当に、本当に私だけを愛してくれた。
それなのに私は、アイツが恋愛感情で好きじゃないんだ。
ごめんなさい。
悪いって思ってなくて、ごめんなさい。
アイツのメールを漁っていて、ある所で指を止めた。
「この辺りかな…」
そんなアイツがちょっとずつ変わっていった。
私はその微々たる変化に気付いていた。
先刻、アイツが別れを切り出すメールを送ってくるずっと前から。
丁度この辺りよね。試合があるっていう話をしていた頃。
結局、私は応援しに行かなかったんだ。
だって馬鹿みたいに朝早いんだもの。行きたくなかった。
応援しに行かなかったくらいで、怒る奴じゃない。
でも、確かにこの辺りから変わり始めた。
素敵な子に出会ったのかしら?
そう、アイツはこの頃から私に携帯を預けなくなった。
最後に見たアイツの受信BOXには、女の子からのメールがあったんだ。
何とかエミちゃん、だったかな。
もしかしたら、エミコだったかも。
彼女、アイツと同じ趣味を持ってる子みたいだった。
文面を見る限りじゃとても素直そうな子。
ついでに言うと、その時のメールは浮気とは無縁の内容だった。
その趣味のことで盛り上がっていたけど、私にはちっとも興味がない。
それ以降、アイツは私に携帯を見られることを嫌がった。
一度取り上げてやったけど、ロックが掛かっていた。
分かり易いにも程があるって、思わず呆れちゃった。
ああ、かったるいわ。
ああ、気持ち悪いわ。
ああ、腹立たしいわ。
なんであんな男と付き合ったのかしら。
多分、気紛れね。
そしてあの男と別れる原因は、私のこんな本心よね。
あの男は、私がまだ自分のことを好きだと勘違いしてる。
まだも何も、私はアンタなんか好きじゃない。
だけど、いいわよ。
そう思い込んでいて。見逃してあげる。
何だか憐れだから、それくらい多めに見てやるわ。
貴方どれだけのお金を私につぎ込んだのかしら。
頼んでもいないのに、色んな物買ってくれたわよね。
有難う、それが貴方の一番素敵なところだったわ。
翌日、あの男から電話が掛かって来た。
『…やっぱり、別れることにしようと思う』
「そう」
『…ごめんね』
「いいよ。謝ることなんかないんだから」
『うん』
「別れても、ずっと応援してる。頑張って」
『ありがとう』
どう?満足かしら?
電話を切った後、貴方は私が涙を流すのを想像するのね。
残念だけど期待に添えないわ。
だって、私の口元に笑みが溢れてしまっているから。
削除よ。
携帯から貴方の存在を。
メールも着信履歴もリダイヤルも、そしてデータも。
邪魔なのよ。
ちょくちょく連絡入れてくるから、貴方のデータが溢れちゃって。
本当に好きな男からの連絡が埋もれちゃってる。
サヨナラ。
もう二度と、会いたくないわ。
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