Cowardly Love
「抱き締めてやろっか、お前のこと」
この男、いつもこんなことばかり言う。
「そんな気ないくせによく言う」
あたしは呆れて椅子にもたれ掛かった。
この男は、あたしよりも10歳くらい年上で恋人もいる。
恋人を見たことはないけれど、きっとキレイな人なんだろうと思う。
そう、あたしよりもずっとずっとキレイな人。
あたしのことなんか、妹みたいに余裕を持って扱えるような女の人。
あたしは、この屈託なく笑う男が好きなんだ。
恋愛感情があるかどうかは判らない。
だけど、あたしはこの男が好き≠ネんだ。気持ちが溢れるくらい。
「じゃ、今度ドライブ行こう」
「ホントに連れて行ってくれるんですか」
本気じゃないことなんて、分かり切っている。
だから、あたしだってこうして受け答え出来る。
「連れてく。絶対連れてくよ」
「…そう。じゃあ楽しみにしてます」
「うん、してて」
そうして彼はまた嬉しそうに笑顔を作る。
会話に参加している当人同士が、本気じゃないと判っている。
そんな偽りの約束。
いつも会う度にこんなことばっかり言ってる。
あたしは彼の連絡先も、家も、本音さえも知らない。
知らないことだらけ、上辺だけの付き合い。
嘘っぱちの愛。空虚な約束をただ徒に重ねていくやりとり。
だけど、あたしはこの関係が好きだ。
「じゃあ今度のお前の誕生日には飯奢るからな」
「ウソ。そんな気ないくせに」
「嘘じゃないって。ホントにホントに奢ってやるよ」
愉しみなんだ。彼とこんな会話するのが。
決して実行されないけれど。実行してはいけないけれど。
嘘でもいい、愛の言葉が欲しい。
決して叶わぬ約束だとしても、幾重にも交わしたい。
彼の笑顔で、幸せなんだと錯覚させて欲しい。
触れそうで触れない関係だから、こんな楽なことない。
裏切られることのない関係だ。だって、最初から信用してない。
でも、彼と一緒に居る時間は現実だ。
恋なのか、何なのか。
もし恋だとしたら、あたしはいつからこんなに臆病になったのだろう。
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